IPOコラム

上場(IPO)直前に上場中止となったケースからみる、上場準備での留意点

2018年9月18日に東京証券取引所により、株式会社テノ.ホールディングス(7037)の上場承認取り消しが発表されたことで、2018年の上場直前での上場承認を取り消しが4社目となりました。

本コラムでは、上場直前に上場承認取り消しとなった事例について解説いたします。
 

1、上場直前のスケジュール

上場するまでのプロセスの中で、主幹事証券引受審査から実際に上場(IPO)するまでは
以下の審査、承認の流れになります。

1.主幹事証券引受審査

2.証券取引所審査

3.上場承認

  └需要申告開始、仮条件決定

  └ブックビルディング(需要申告)

  └公募、売り出し価格決定

4.新規上場(IPO)

「1.主幹事証券引受審査」の段階で、準備にあたって資料が整っていない、業績推移が想定通りに進んでいないなどの要因で、上場時期を決算期1期分伸ばしましょう、など上場時期についての調整を主幹事証券と行うケースも多いです。

「1.主幹事証券引受審査」を無事通過すると、次は「2.証券取引所審査」になります。

基本的には主幹事証券の審査を通過している、という前提での審査になりますが、証券取引所目線での審査が行われます。

このタイミングでも取引所から改善点を指摘される事項があった場合に、指摘事項を改善しその後の状況を確認してから再度審査をするため、3ヵ月か6ヵ月様子をみて再度審査を行う、というケースもあります。

「2.証券取引所審査」の通過した場合は、証券取引所から連絡があり、「3.上場承認」となります。 
それぞれ過程で、様々な要因で上場準備が中止するケースがありますが、それらは一般に公表されるものではないため、具体的な企業数などを把握するのは難しいです。

基本的には、「3.上場承認」によって、4桁の証券コードが付与され、経営陣や関係者は一旦安心するタイミングになります。

但し、上場準備にあたっては、「4.新規上場(IPO)」となるまでは、中止となる可能性が残ることに留意が必要です。

対応できることは限られてはいますが油断はできない状況であることは理解しておく必要があります。

2、上場承認取り下げの事例

「上場承認」まで進んだ状態で上場を中止する場合は、取引所から上場承認取り消しの発表があります。

2016年に2社、2017年も2社ありましたが、
2018年は、9月時点で既に4社の上場承認の取り消しが発生しています。

2018年に発生している4社について、上場承認日から取消日までのスケジュールや、
上場を予定していた会社によるコメントや、取引所による発表の内容が以下になります。

世紀株式会社(6234)


射出成型の合理化機器を製造販売
・上場承認日:2018年1月5日
・上場承認取消日:2018年1月22日(東証が上場承認を取り消すと発表)
・上場予定日:2018年2月8日
・上場市場:東証マザーズ予定

同社による発表

「社内規程に照らして確認すべき事項が発生し、平成 30 年1月 22 日開催の当社取締役会において当該確認に時間を要するものと判断したことから」という理由とのことです。
同社は「内部規定の内容を見直し「改めて上場承認を求めたい」」意向にあります。

東証による発表
「同社から新規上場を取り止める旨の申出がありましたので、当該承認を取り消すことといたしました。」とのことです。

株式会社インバウンドテック(7031)


24時間365日・多言語対応のコンタクトセンター運営事業とセールスアウトソーシング事業
・上場承認日:2018年5月25日
・上場承認取消日:2018年6月22日(東証が上場承認を取り消すと発表)
・上場予定日:2018年6月27日
・上場市場:東証マザーズ予定

同社による発表

同社によると「確認すべき事項が生じ上場予定日の6月27日までに解消するのが難しいと判断した」とのことです。

東証による発表
「同社から新規上場を取り止める旨の申出がありましたので、当該承認を取り消すことといたしました。」とのことです。

株式会社パデコ(7032)


発展途上国のハード・ソフトのインフラの企画、設計、施行管理から
運用支援に至るまでを手掛ける国際開発コンサルタント企業
・上場承認日:2018年5月25日
・上場承認取消日:2018年6月8日(東証が上場承認を取り消すと発表)
・上場予定日:2018年6月28日
・上場市場:東証JASDAQスタンダード予定

同社による発表
「内部管理体制に関連して確認すべき事項を発見して、確認に時間を要すると判断したことから、IPOが中止となりました。延期後の再開時期については、当該確認の結果を踏まえて状況を見極めた上で総合的に判断する予定」とのことです。

東証による発表
「同社から新規上場を取り止める旨の申出がありましたので、当該承認を取り消すことといたしました。」とのことです。

株式会社テノ.ホールディングス(7037)


直営保育所・受託保育所の運営、幼稚園や保育所に対する保育士派遣、
ベビーシッターサービス・ハウスサービスの提供、tenoSCHOOL(テノスクール)の運営
・上場承認日:2018年8月17日
・上場承認取消発表日:2018年9月18日(東証が上場承認を取り消すと発表)
・上場予定日:2018年9月20日
・上場市場:東証マザーズ、福岡証券取引所Qボード上場予定

同社による発表
「新たに確認すべき事項が生じ、新規上場の承認が取り消されたため、募集株式発行並びに株式売出しを中止することを」とのことです。

東証による発表
 「コーポレートガバナンスや内部管理体制の有効性について新たに確認すべき事項が生じた」とのことです。

4社のコメントからも違いがあり、3社は自ら取引上に取り止めの申し出を行っており、1社は東証により取り消し、違いがあります。

また、「内部管理体制に関連して確認すべき事項が発生し」「社内規程に照らして確認すべき事項が発生し」など具体的な理由については開示されません。
では、上場準備中の会社はこの事例をみて、どう対応すべきでしょう。

3、上場承認取り下げ後の対応

株式会社ネットマーケティングは、一度は上場承認を受け、上場直前に上場承認取り下げとなったものの、その後再度上場審査を通過し、2017年3月に東証JASDAQスタンダードに上場しました。

株式会社ネットマーケティング(6175)


アフィリエイト広告事業と、恋愛マッチングアプリ「Omiai」を運営するメディア事業
・上場承認日:2015年8月13日(東証マザーズ)
・上場承認取消発表日:2015年8月27日(東証が上場承認を取り消すと発表)
・上場予定日:2015年9月16日(東証マザーズ)
同社による発表: 
当社を取り巻く事業環境の変化に関連して、今期業績に与え得る影響を慎重に確認すべき事項が発見され、本日開催の当社取締役会において、当該確認に時間を要するものと判断したことから、募集株式発行並びに株式売出しの中止と、上場申請の取下げを決議いたしましたので、お知らせ申し上げます。
 
・上場承認日:2017年2月24日(東証JASDAQスタンダード)
・上場日:2017年3月31日(東証JASDAQスタンダード)
・東証二部への承認日:2018/05/21
・東証二部へ:2018/05/28(東証JASDAQスタンダードから)

上記のように、2015年8月に東証マザーズ上場は中止となりましたが、2017年3月に東証JASDAQスタンダード、2018年5月に東証二部に上場しております。

4、上場承認取り下げの理由

「内部管理体制に関連して確認すべき事項が発生し」「社内規程に照らして確認すべき事項が発生し」など具体的な理由については開示されませんが、考え得る要因はどようのなものになるのでしょう。

上場直前か否かを問わず、上場が中止になる理由は「主幹事証券引受審査」や「証券取引所審査」の対象項目を満たせなかったことが直前に判明したということが考えられます。

対象項目の中でも、反社会的勢力との関与、社内規程通りに運営がなされていなかった、隠れた訴訟リスクが発覚した、業績の進捗が予算通りでなく予実での乖離が発生している(東証マザーズの場合は、高い成長性が認められない)などがよく言われる点です。

5、上場準備にあたって

上場準備を進めるにあたって、外部要因も大きなハードルとなるケースもあると考えられますが、「主幹事証券引受審査」や「証券取引所審査」で求められる項目をクリアする必要があるということは間違いないので、少しでも早い段階からそれらの項目を満たすことができるように、事前に期間的な余裕をもって、IPOのためだけでなく、実際に運用フェーズ乗ったレベルで準備しておくほかないのではないのではないでしょうか。