IPOコラム

2018年のIPO事情を振り返る

2018年はIPO(新規上場)ブーム再燃がより顕著になった一年でした。
地方証券取引所も含めた上場企業数は91件(テクニカル上場を除く)になりました。
過去10年間のIPO動向は、2009年の19件を最低件数として徐々に回復傾向にあります。
 

成熟産業からも上場


今年(2018年)振り返るにあたって注目すべき点として、成熟産業の企業が上場した事例があげられます。

例えば、10月にJASDAQスタンダートに上場したプリントネット株式会社は、1968年に創業し、鹿児島で印刷業を営んでいます。

特筆すべき点は、印刷業という成熟産業において、創業後50年を経るタイミングで上場した点にあります。
 


IPOを果たした企業の内訳をみると情報・通信サービス業が多数を占めています。
第四次産業革命に代表されるように、ITを活かした技術革新への期待が高まっていることの表れです。
多くが東京に本社を構え、設立してから10~20年程度の若い会社です。
特に、マザーズ・JASDAQのように未上場企業が挑戦する新興市場では、将来への期待が強く問われます。

そうしたなかでも、成熟産業においても事業を伸ばしIPOしたのが、プリントネット株式会社です。
同社は印刷業界のなかでも、一般企業や・個人顧客をターゲットにチラシの製造や製本を行う商業印刷に属します。

市場規模全体の推移は、2010年には、2兆9,992億円であったところ、
2015年には2兆7049億円に、そして2020年には2兆5,037億円に落ち込むといわれております(日本印刷産業連合会, 2011)。
2010年代のうちに、16%程度のシュリンクが想定されます。
 
一方、同社の経営成績は、
2013年には売上高が33億25百万円、経常利益が76百万円でしたが、
2017年には売上高が68億48百万円、経常利益が6億57百万円にまで成長しています。
 
業績向上の大きな要因としては、従来の印刷サービスに個人・法人向けの通信販売を導入したことがあげられます。
 
もともと、同社は家族経営を行う小さな会社でしたが、2005年に現在の社長が就任し、第二創業を迎えます。そこで、印刷×通販事業に本格参入します。
 
デザインの企画や制作は行わず、注文をネット上のみで受け付けることにより、
営業活動やデータの受取りをはじめとした受発注業務の手間を省くことが特徴です。
結果として、納期の短縮や価格を低く抑えることにつながり、
事業を成長させることができたといえます。
 
IPOを目指す企業はITに特化した若い企業に限りません。
成熟産業においても事業戦略の組み方次第で、歴史ある企業の持つノウハウを活かしながら、
IPOすることが可能です。
 

IPOと経営者の年齢

続いては、市場別にみるIPO時の代表取締役の年齢です。

IPOを目指すにあたって、通常は数年の期間を要します。
監査法人による監査や、証券取引所による労務管理の審査等、上場可能な体制を整えていくことが求められます。

これらを乗り越えることで、資金調達が可能になり、会社の知名度や信頼性の向上が期待できます。

また、IPOを果たすことで、オーナーの個人保証が外れる、株式売却による現金化で創業者利益を得るといった、事業承継のスキームとして活用することもできます。

帝国データバンクによる発表では全国の代表取締役の平均年齢は59.5歳とされています。

(出典:株式会社帝国データバンクHP 「平均年齢 59.5 歳、過去最高を更新 」https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p180106.pdf

上場企業に限っても、平均年齢は58.9歳となっており、非上場、上場企業に限らず高齢の傾向がうかがえます。

企業経営や、経営者の方々の人生にとって大きな転換点になるIPOと年齢にはどのような関係があるのでしょうか。

早速ですが、今年IPOを果たした企業における社長の年齢の平均値と分布は以下のようになっております。(※テクニカル上場、追加上場は集計外とする。)

(出所:各証券取引所のHPをもとに弊社集計)

表の上段は、東証1部、2部に加え、札幌証券取引所といった地方を含めた国内の証券取引所の集計結果です。
平均年齢は53.3歳になっており、先述した上場企業の平均値から5歳も低いことが明らかになりました。

表の中段は、マザーズ、JASDAQといった新興市場に限った集計結果です。
平均年齢は52.1歳にまで下がります。30歳代が10名、40歳代は25名となっており、比較的若い年齢の社長が目立ちます。

さらに表の下段は、マザーズへのIPOのみを集計した数値になります。ITベンチャー企業が多く集うと思われるマザーズですが、平均年齢は50.0歳になります。

ご参考までに、上記の結果をもとに国内すべての市場におけるIPO企業数、
新興市場に限定したもの、更にマザーズに限定したものにおいて、
各年代が占める割合を比較しました。

(出所:各証券取引所のHPをもとに弊社集計)

灰色で示されているマザーズは、他と比較して40歳代の層が厚く、
38.1%にまで高まっています。とはいえ、50歳代も27.0%、60歳代も17.5%みられます。

一般的に、新興市場は未上場の企業が初めてIPOを目指すことが多い市場で、
東証1部や東証2部等より審査基準が低くなっております。

2018年を振り返ってみても、IPOを果たした企業90社のうち新興市場へのIPOを果たした企業は78社と、全体の86.6%を占めます。

ソフトバンク株式会社のように未上場企業がいきなり東証1部へ上場することよりも、
マザーズをはじめとした新興市場へIPOを経てからステップアップする場合の方が多くなります。

まとめますと、2018年のIPOした企業の代表取締役の年齢の平均値や年代の分布から察するに、
20歳代、30歳代だけでなく、40歳代や50歳代から準備を始めた企業も多いことが推測されます。
IPOを目指す年齢に遅すぎるということはありません。
少しでもご関心をお持ちでしたら、アクションを起こしてみてはいかがでしょうか。