IPOコラム

反社チェックとは?上場準備におけるポイントを解説!

1.反社チェックとは?

反社チェックとは、企業が契約を締結する際や取引を開始する際などに、その相手が反社会的勢力ではないかを事前に調査することです。反社会的勢力との取引等を未然に防ぐために非常に重要な業務です。

2.上場準備においてなぜ反社チェックが必要なのか?

2007年7月に日本証券業協会が公表した「証券取引及び証券市場からの反社会的勢力の排除について(中間報告)」によると、暴力団などの反社会的勢力にとって、証券取引を悪用した不正事犯は、他の資金源と比較して、はるかに多額の資金を比較的短期間に獲得できる「うまみ」のある資金源であり、暴力団をはじめとする反社会的勢力は、証券取引・証券市場から直接的または間接的に資金を獲得していました。

そのため、すべての証券関係者が一致団結して、証券取引・証券市場から一律に反社会的勢力を排除していくことが求められるとし、具体的な施策として、引受を行う証券会社が、新規公開株式会社の公開適格性の審査の一環として「反社会的勢力との関係の有無及び排除の仕組み」に関して厳正に審査を行うことが求められました。

このように、上場準備会社が反社会的勢力と接点がある場合、株式上場や上場準備会社との取引を通じて、上場準備会社が反社会的勢力への資金供給源となり、ひいては暴力団の抗争や違法薬物の密輸、一般市民が被害を受ける詐欺などの犯罪に利用されてしまう可能性があることから、反社会的勢力との取引等を未然に防止するために反社チェック体制の整備が必要とされております。

また、反社会的勢力と取引を行うことによって上場準備会社自身も社会的信用が失墜し、重要な取引先からの取引が停止されたり、金融機関からの融資が停止されるなど経営に大きな損害が発生するリスクがあります。それだけでなく、相手先から不当要求を受けるリスクもあり、企業だけではなく従業員個人が脅されることもあります。このように、経営上の被害、社員への被害を未然に防ぐためにも、反社チェックは非常に重要な業務なのです。

3.反社チェックの方法

(1)反社チェックを行う対象

反社チェックを行う対象は、上場準備会社の株主や役職員、販売先(売掛先)や仕入先(買掛先)等の取引先企業です。取引先企業については、原則として、対象企業と代表者を対象に反社チェックを行うことが必要となります。

また、対象企業がリスクの高い企業と判断された場合は、すべての役員や大株主、顧問税理士・顧問弁護士等の重要な外部関係者も対象範囲に含めることが必要となるケースもあります。

(2)反社チェックのタイミング

・新規取引先

新規取引先の場合は、必ず取引開始前に反社チェックを実施する必要があります。反社チェックを実施しないで契約を結び、取引開始後に反社だったと判明した場合には、大きな問題が生じるケースがあるため注意が必要です。

また、新規に株主になる場合は株式の譲渡前、役員に就任する場合は就任前、従業員やアルバイト等を採用する場合は入社前に、それぞれ反社チェックを実施する必要があります。

・既存取引先

既存取引先の場合も、原則として、年1回反社チェックを実施する必要があります。これまでは問題がなかったとしても、状況が変わって反社会的勢力に関わるようになるケースがあるために定期的に反社チェックを行うことが必要となります。

(3)反社チェックの手順

・新規取引先

 Ⅰ. 資料の入手・情報の収集

会社案内、決算書、取引基本契約書、現地確認等により、取引先の情報を収集します。

 II.  外部調査機関への照会

「帝国データバンク、東京商工リサーチ」等への照会等により、取引先の信用情報等を収集します。

 III.新聞や雑誌等の記事検索

「日経テレコン」等を活用して新聞や雑誌の記事データベースを検索します。

 IV.インターネット検索

Yahoo、Google等のインターネット検索サイトを用いて検索します。

 V.  反社チェック結果の確認と保存

以上のプロセスで収集した情報をもとに、会社として取引可否を判断します。

また、反社チェックの結果は、いつでも確認できるように整然と保管します。

なお、最近では、以上の反社チェックプロセスの一部を自動化したツールや、検索結果をインターネットを通じたクラウド上に保管できるサービスも存在します。

・既存取引先

 I.前回調査時からの変更点等の確認

 社名、所在地、代表者、役員、大株主等の変更点を確認します。

 II.  情報収集

 新規取引開始時と同様に、外部の調査機関のデータベースやインターネット検索により対象者の情報収集を行います。

 Ⅲ.  反社チェック結果の確認と保存

 新規取引先の場合と同様に、収集した情報をもとに会社として取引継続可否を確認します。また、反社チェック過程で収集した情報は適切に保存します。

(4)調査対象が反社と判明した場合または疑義が生じた場合の対応

反社チェックの結果、反社会的勢力と判明した、もしくはその可能性が高いとされた場合には、慎重に対応する必要があります。暴力団追放運動推進センター、弁護士や警察へ相談する、相手に詳細を伝えずに取引を中止するなどの方法で、問題の発生を未然に防ぐ必要があります。

4.反社チェック以外に必要な具体的施策

反社会的勢力を排除する体制を整備するためには、反社チェックを行うだけでは十分とは言えません。反社チェック以外に次のような施策を行う必要があります。

(1)「反社会的勢力との関係遮断」の基本方針についての取締役会決議

 経営トップ自らが率先して「反社会的勢力との関係遮断」に取り組むことが大切であり、「反社会的勢力との関係遮断」の基本方針について、取締役会で決議する必要があります。

【反社会的勢力との関係遮断の基本方針(サンプル)】

 I.当社は、暴力団、暴力団構成員、準構成員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等の反社会的勢力(以下、「反社会的勢力」という。)との関係を一切遮断する。

 II.  当社は、反社会的勢力排除のため、次の内容の体制整備を行う。

  i.反社会的勢力対応部門の設置

  ii.反社会的勢力に関する情報収集・管理体制の確立

  iii.外部専門機関との連携体制の確立

  iv.反社会的勢力対応マニュアルの策定

  v.暴力団排除条項の導入

  vi.その他、反社会的勢力を排除するために必要な体制の確立

(2)反社会的勢力対応部署の設置

反社会的勢力からの不当要求に対応する部署を設置する必要があります。企業の規模、収益の状況から専任部署を置くことが困難な場合は、リスク管理を担当する部署に兼任させることも可能です。

【対応部署の役割】

I. 反社会的勢力に関する情報の管理

 反社会的勢力に関する情報を一元管理・蓄積し、反社会的勢力との関係を遮断するための取組みを行います。

II.   不当要求防止責任者の選任

 不当要求に対応できる体制として、本社とは別に支店(店舗)の従業員の中から責任者を専任します。

III.   対応マニュアルの整備と社内への周知徹底

 反社会的勢力への対応マニュアルを整備し、役員・従業員に周知徹底させます。

Ⅳ.   外部専門機関との連携

 外部講習会やセミナーへの参加や、所轄警察署・暴追センターの担当者と意思疎通を行って、最新情報の収集と緊密な連携関係を構築します。

V.   有事における現場担当者への助言・指導

 相手方への対応のあり方について、具体的に指導・助言する。問題の大きさによっては、対応部門自らがその処理にあたります。

(3)「企業行動規範」「社内規則」等への明文化

「反社会的勢力との関係遮断」について企業行動規範や社内規則(就業規則)等に明文化する必要があります。

【就業規則(サンプル)】

第〇〇条 (懲戒)

 会社は、従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、審査のうえ懲戒処分を行う。

(1)暴力団、暴力団構成員、準構成員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等の反社会的勢力と取引を行ったとき

(2)取引を行うにあたり、反社会的勢力かどうかの審査する手続きを怠ったとき

(3)反社会的勢力から、不当な要求がなされた場合において、直ちに会社に報告しなかったとき

(4)反社会的勢力との交際を通じ、会社の名誉または威信を傷つけたとき、あるいは違法行為その他の一般に認められている倫理基準に反する行為を行ったとき

(5)前各号に準ずる行為があったとき

(4)外部専門機関との連携

 暴力追放運動推進センターとは、暴力団対策法によって、暴力団員による不当な行為の防止と、これによる被害の救済に寄与することを目的として設立された公益法人であり、全国的な組織として「全国暴力追放運動推進センター」が、各都道府県には「都道府県暴力追放運動推進センター」が設置されています。

 反社会的勢力の排除には、外部専門組織との連携も必要であり、暴力追放運動推進センター等への加入が望まれます。

【暴力追放運動推進センターの有効性】

I. 相談活動

 企業が抱える不当要求事案の相談に対し、警察OBが相談に乗り、必要に応じて速やかに警察・弁護士と連携できる体制を整備

II.  情報提供

 公知の事実(新聞記事に掲載等)についての情報提供・不当要求事案対応に関する情報提供

III.講習・研修の開催

 不当要求に対する対応要領等の指導

(5)反社会的勢力対応マニュアルの策定

反社会的勢力との対応手順等を明記した「反社会的勢力対応マニュアル」等を整備し、日頃より、役員・従業員に周知徹底することが必要です。

【反社会的勢力対応マニュアル(具体的な対応要領 例)】

I. 来訪者のチェックと連絡

II.相手の確認と要件の確認

III.  対応場所の選定 

IV. 対応人数

V. 対応時間 

VI. 言動に注意

VII. 書類の作成・署名・押印

VIII.即答や約束はしない 

IX.トップ(社長)には、対応させない

X.  お茶出しなどの接待対応はしない

XI. 対応内容の記録(明文化)

XII. 警察に通報

(6)暴力団排除条項の導入

自社が締結する契約書(取引基本契約書など)に、相手方が反社会的勢力であった場合は契約を解除してその相手方を当該取引等から排除できる旨を定めておくことで、万一、反社と気づかず契約した場合や事後に反社であることが判明した場合でも反社会的勢力との接点を法的にも解消できるよう備えが必要です。

【暴力団排除条項(サンプル)】

第〇〇条 (契約の解除)

 甲(当社)は乙(相手方)が、次の各号のひとつに該当する場合、契約を解除することができる。

(1)乙が暴力団、暴力団構成員、準構成員、暴力団関係企業・団体またはその関係者、その他反社会的勢力であると判明した場合

(2)乙が甲との取引に関して、脅迫的な言動をし、または暴力を用いたとき、もしくは、風説を流布し、偽計を用い、または威力を用いて甲の信用を著しく低下させた場合

(3)乙が甲の従業員その他関係者に対し、暴力的要求行為を行い、あるいは、合理的範囲を超える要求をした場合

5. 上場準備におけるポイント

反社会的勢力排除の体制整備に関する上場審査上の主なポイントは、次の通りです。

I.経営トップ(社長)自ら率先して、反社会的勢力排除の取り組み、対応を行っているか

II.反社会的勢力との関係遮断についての認識が全社的に統一され、企業風土として定着しているか

III. 反社会的勢力による不当要求に応じることや、反社会的勢力との取引を行うことが多大なリスクであり、反社会的勢力との関係遮断を行うことが全社的に確認され、周知徹底されているか

IV. 事業活動上の不祥事や役員・従業員の不祥事を理由とする不当要求に対して、事案を隠ぺいするための裏取引を行うと多大なリスクであり、裏取引を絶対に行わないことが全社的に確認され、周知徹底されているか

V.  企業行動指針等で、反社会的勢力との関係遮断が規定されているか

VI.取締役会において、反社会的勢力関係遮断に関する基本方針を決議しているか

VII.反社会的勢力との関係遮断のための専門部門および責任者を設置しているか

VIII.取引先・株主等の反社チェック体制が構築されているか。また、あわせて、継続取引先に対する定期的な調査が実施可能な体制が整備され、実施されているか

IX.外部専門機関(警察・暴追センター、弁護士など)との間の連絡・相談等の連携体制ができているか

X.「不当要求防止責任者講習」を利用する、社内研修を開催するなど、役員・従業員向けの研修等を実施しているか

XI.全国暴力追放運動センターの対応要領等を参考にして、反社会的勢力による不当要求への対応マニュアルが策定されているか、社内研修等を通じて、対応マニュアルが役員・従業員に徹底されているか

XII.反社会的勢力による不当要求がなされた場合等に情報伝達・指揮命令系統が明確になっているか

XIII. 契約書等に暴力団排除条項が盛り込まれているか

6.最後に

株式会社船井総合研究所では、上場準備会社様に向けたIPO準備に関するセミナーを定期的に開催しております。

また、IPO準備全般について、弊社では実際に事業会社にてIPO準備に携わった(CFOや上場準備責任者等)IPOコンサルタントが在籍しておりますので、下記よりお問合せください。

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