IPOコラム

ストックオプションとは?仕組み、メリット・デメリット等を網羅して解説!

1 ストックオプションとは

ストックオプションとは、会社法第2条21号で定義される新株予約権の一種で、主に会社の従業員や役員(以下、「役職員」といいます。)に対して与えられる権利です。

ストックオプションを付与された役職員は、

・「あらかじめ定められた期間内」に、

・「あらかじめ定められた価格」で、

・「あらかじめ定められた数量」の、

・「自社の株式」

購入することができます。

購入した株式は、そのまま保有しても良いですし、購入価格よりも高い価格で売却して利益を得ることもできます。

例外的な場合を除き、上場前よりも上場を実現した後のほうが株価は高くなる傾向があります。そのため、上場準備企業が、役職員へのインセンティブ付与の手段としてストックオプションを活用しているケースが多く見られます。

なお、ストックオプションはあくまで役職員に与えられる権利であり、必ずしも自社株式の購入を強制するものではありません。
例えば、上場後の株価が低迷し、あらかじめ定められた購入価格を下回っている局面があったとします。このような局面では、株式を購入した後に即売却すると損失を出してしまう結果になります。こうした事態を回避するため、個人の判断で権利を行使せず、株式を購入しない選択をすることも当然ながら可能です。

2 ストックオプションの仕組み

下図は、縦軸を株価、横軸を時間の経過とし、株価の推移を表したグラフです。

この図に基づき、

(1)役職員へのストックオプション付与

(2)役職員による権利行使

(3)役職員による自社株式の売却

の3つの段階に分けてストックオプションの仕組みを解説していきます。

(1)役職員へのストックオプション付与

ストックオプション付与時の役職、勤続年数等、社内で定めた基準に沿って、付与対象となる役職員の範囲や各々への付与数を決定します。

このとき、自社の株価が1株500円と算定されたとします。

与えられた権利を役職員が将来行使し、株式を購入する際に払込みを行う金額(権利行使価格)は、一般的にはストックオプション付与時点の株価と同額で設定します。

つまり、役職員はこの場合、1株あたり500円で自社の株式を購入できる権利を会社から付与されることになります。

(2)役職員による権利行使

ストックオプション付与から数年後、会社は当初の目標通り上場を果たします。上場後、役職員は権利を行使し、自社の株式を購入します。

この時点で、株式市場での株価は1,500円になっているため、市場で購入する場合と比較し、1株あたり1,000円安い価格で株式を購入できることになります。

(3)役職員による自社株式の売却

その後も、会社の業績は順調に推移し、株式市場からも高い評価を受け、株価は2,500円になったとします。

この時点で、役職員は保有する自社株式を市場で売却することにしました。

1株500円で購入した株式を2,500円で売却するため、役職員は、1株あたり2,000円のインセンティブ(税引前)を得られます。

3 ストックオプション導入のメリット

ストックオプション導入のメリットとして、以下の3つがあります。

(1)役職員のモチベーション向上

ストックオプションは、付与時点の安い株価で、将来、価値が大きく向上した自社の株式を購入できる権利です。

株式上場の実現や業績の拡大等により、ストックオプションを付与された役職員が経済的な恩恵を享受できるため、各々の担当職務に対するモチベーションを高める効果があります。

(2)優秀な人材の採用

中小企業や創業間もないスタートアップ企業の場合、人材採用の際、相対的に規模の大きな企業と比較し、給与面で見劣りしてしまうケースが想定されます。

自社の事業が順調に成長していること、株式上場を目指していること、ストックオプションにより将来的に大きなインセンティブを得られる可能性があることを候補者に説明し、優秀な人材の採用に向けた活用が可能です。

(3)優秀な外部協力者の確保

ストックオプションは、社内の人材だけでなく、外部の専門家、有識者、社外から招聘する役員等にも付与することができます。株式上場及び上場後の更なる成長に向け、外部の積極的な協力を募る場合にも、ストックオプションは有効な手段の一つとなり得ます。

4 ストックオプション導入のデメリット

反面、ストックオプションには導入のデメリットもあります。主なものは以下の3つです。

(1)権利行使直後の離職

ストックオプションで多額の利益を得られる点に大きな魅力を感じて入社した従業員の場合、権利行使直後に離職してしまう懸念があります。

もちろん、従業員が長く働き続けたいと思える会社にしていくことが大前提ではあります。しかしながら、こうした事態を防ぐため、ストックオプション付与時の一つの工夫として、べスティング条項を定めている会社も多く存在します。

べスティング条項とは、ストックオプション付与後の経過期間等に応じ、権利行使可能な範囲が段階的に認められる条項をいいます。

(べスティング条項の一例)

権利行使の時期権利行使可能な範囲
上場前権利行使不可
上場後1年未満付与された権利の20%まで行使可能
上場後1年以上2年未満付与された権利の40%まで行使可能
上場後2年以上3年未満付与された権利の70%まで行使可能
上場後3年以上付与された権利を全て行使可能

(2)株式価値の希薄化

ストックオプションを発行した場合、将来的に発行済株式に置き換わる可能性がある「潜在株式」の比率が高まります。

権利行使後、発行済株式が増えると、既存株主の保有比率は下がり、株式の価値は相対的に目減りしてしまうため、上場時のストックオプション比率には十分に留意する必要があります。

一般的に、上場時のストックオプション比率の上限は、発行済株式数の10%前後が目安とされています。ストックオプション導入時には、この水準を意識しながら、上場までの株式数の推移を十分にシミュレーションしていくことも必要です。

(3)付与対象者以外のモチベーション低下

上記の通り、上場時のストックオプション比率の上限は10%前後が目安とされているため、無尽蔵に発行できるものではありません。発行可能な数量に限りがあるため、付与対象者をある程度絞り込まなければならない場面も想定されます。

このような場面では、ストックオプション付与の基準が曖昧だと、付与対象者以外のモチベーション低下につながる懸念があります。

そのため、客観的な基準を設定し、感情や恣意的な判断が紛れ込まないようにした上、付与対象者及び付与するストックオプションの数量を決定していく必要があります。

5 税制適格ストックオプションについて

ストックオプションには、様々な種類があります。上場準備企業では、税制面での優遇を受けられる「税制適格ストックオプション」が多く活用されています。

下表は、税制適格要件を満たした「税制適格ストックオプション」と、要件を満たさない「税制非適格ストックオプション」に関する税負担を比較したものです。

(税負担比較:税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプション)


ストックオプションの種類
税負担
権利行使時売却時
税制適格ストックオプション発生しない発生する
(譲渡所得)
税制非適格ストックオプション発生する
(給与所得)
発生する
(譲渡所得)

税制適格ストックオプションの場合、権利行使時には税負担が発生しません。

売却時にのみ、得られた利益、つまり、売却価格と権利行使価格の差額に対し、譲渡所得として20.315%の課税が行われます。

一方、税制非適格ストックオプションの場合、権利行使時及び売却時の双方で税負担が発生します。

権利行使時には、権利行使時の株価と権利行使価格の差額が給与所得として課税されます。また、売却時には、売却価格と権利行使時の株価の差額が譲渡所得として課税されます。

・権利行使時に税負担が発生しないため、別途、納税資金を準備する必要がない。

 (売却時に得られた現金の一部を納税資金に充当すれば良い。)

・多くのケースで、譲渡所得のほうが給与所得よりも税負担の総計が小さくなる。

税制適格ストックオプションには、税制面で上記2点のメリットがあります。

なお、税制適格ストックオプションの主な要件は2024年1月現在、下表の通りです。

2023年12月に発表された税制改正大綱では、税制適格ストックオプションの要件緩和に言及されています。近い将来の税制改正により、ストックオプションをより柔軟に活用できるようになる可能性が見込まれます。

(税制適格ストックオプションの主な要件)※2024年1月現在

項目要件
付与対象者・自社及びその子会社の取締役、執行役、使用人
・一定の要件を満たす外部協力者
※ 弁護士、専門エンジニア等、社外高度人材活用新事業分野開拓計画の認定に従って事業に従事する者
発行価格・無償発行
権利行使期間・付与決議後2年を経過した日から10年を経過する日まで
・設立5年未満の非上場会社の場合、15年を経過する日まで
権利行使限度額・権利行使価格の合計額が年間1,200万円を超えないこと
権利行使価格・ストックオプションに係る契約締結時の時価以上の金額
譲渡制限・他者への譲渡は禁止
保管委託・行使後は証券会社等による保管・管理等信託が必要
その他事務手続き・法定調書、権利者の書面の提出

6 ストックオプション導入時の留意点

役職員等向けのインセンティブプランとしてストックオプションを導入する際の留意事項は、以下3点です。

ここまで述べてきた内容と一部重複する部分もありますが、本コラムのまとめとしてお読みください。

(1)自社の株価が安いうちに発行する。

ストックオプションの権利行使価格は、一般的に、ストックオプション付与時点の株価と同額で設定します。

発行時の株価が安ければ安いほど、ストックオプションを付与された役職員は、より多くの売却益を得られます。

(2)十分にシミュレーションを行い、ストックオプションを発行する。

「自社株式を誰に、どの時期に、どれだけ持ってもらうのか」を検討する資本政策では、十分にシミュレーションを行い、実行することが重要です。

ストックオプションの導入も、資本政策の一部に該当するため、「誰に、どの時期に、どれだけの数量を発行するのか」を慎重に検討する必要があります。

上場時のストックオプション比率の上限目安とされる、発行済株式数の10%前後を意識しつつ、役職員間の不公平感や不満感にも配慮するなど、バランスを取った判断が求められます。

(3)スケジュールに余裕を持って準備を進める。

初めてストックオプションを発行する企業の場合、発行に係る株主総会決議、取締役会決議等の手続きに関して不慣れな部分も多く、当初の見込みよりも多くの時間を要する懸念があります。

想定外の事態の発生や、急な方針変更を余儀なくされる場合であっても、適切に対応するため、スケジュールには余裕を持って準備を進めることをお勧めいたします。

7 最後に

株式会社船井総合研究所では、上場準備会社様に向けたIPO準備に関するセミナーを定期的に開催しております。

また、IPO準備全般について、弊社では実際に事業会社にてIPO準備に携わった(CFOや上場準備責任者等)IPOコンサルタントが在籍しておりますので、下記よりお問合せください。

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