IPOコラム

2022年上半期のTOKYO PRO Marketの市場の総括と振り返り

TOKYO PRO Market(以下、TPM)における2022年上半期(2022年1月から6月)の総括をお伝えいたします。

東京証券取引所(以下、東証)の市場再編の影響、船井総研がJ-Adviserとして新規参入、TPMでの上場申請の取り下げ、TPM上場企業の上場廃止、TPMを取り巻くプレイヤーの変化など、
一般市場同様、TPMも市況の変化がありましたので、本コラムを通じてTPMの上半期の振り返りと最新情報をお届けいたします。

1. 2022年の上半期のTPM上場企業の状況

2022年上半期は11社が上場し、2021年の上場企業数である13社を上回る勢いとなっております。
2021年に続きTPMの上場企業数が増加傾向にある理由として、下記2点が挙げられます。
 (1)東証の市場再編
  2022年4月4日から実施された東証の市場再編によって、これまで旧JASDAQや旧マザーズへ上場を目指されていた企業がTPMへ目標市場を変更した結果、TPMの  上場企業数が増加したと考えられます。

例えば、スタンダード市場へ上場するためには、
 流通株式比率25%以上、流通株式時価総額10億円以上となっておりますので、
 仮に流通株式比率25%の場合、
  10億円 ÷ 25% = 40億円以上の時価総額が求められることになります。

  実際に、東証の市場再編が関係していると考えられる根拠を2つ示します。
  ①TPM上場企業の業績
   直近3か年における新規上場企業の直前期の業績を比較してみると、売上高、経常  利益ともに平均値が拡大傾向にあることがわかります。
   一般市場からTPMへ目標市場を変更したために、TPM上場企業の業績規模に変化  があったと考えられます。

 ②東京都を本社所在地に置く企業数の割合
   2021年度までは、上場企業数のうち約7割が東京都以外に本社を置く企業であった  にもかかわらず、2022年上半期にTPMへ上場した11社のうち6社は東京都に本社を
  置く情報・通信業やサービス業などの企業になっております。
  一般市場からTPMへ目標市場を変更したために、一般市場に上場しそうな業種・業  態がTPMへ上場しているものと考えられます。

(2)J-Adviserの実績
  TPMへ上場するためにはJ-Adviserとの契約が不可欠となっており、各J-Adviserによ る精力的な活動によりTPMへ注目が集まるという一面もあるかと思います。
 2022年6月末では13社のJ-Adviserが東証より上場審査業務等の委託を受けており、  2021年9月にはアイザワ証券株式会社、2022年4月には当社、というように  
 J-Adviserの会社数も年々増加しております。
  会社数だけではなく、各J-Adviserの実績数も増加しており、2019年は2社、
 2020年は4社、2021年には5社が担当J-Adviserとして実績を残しています。
  このように、各プレイヤーが全国各地でTPMを周知させていることもTPM上場企業 数の増加の要因だと考えられます。

2.事例解説からみる!TPM上場基準の変化!?

・株式会社ジェイベース様の事例
 2022年4月に注文住宅業を営む株式会社ジェイベースが上場廃止となりました。同社は2021年2月にTPMへ上場したばかりでしたので、1年足らずでの上場廃止になります。同社のIRで上場廃止の理由として以下のように公表されています。
「ウッドショック」は、木材の既存のサプライチェーンを突き崩し、価格が2~3倍に上昇いたしました。更に昨年夏以降、半導体や鉄鋼など多品目において値上げの影響を受けております。(~略~)当社といたしましては、強い収益力の改善が何よりも急務であり、非上場化したうえで経費費用の削減を以て迅速な業績回復と経営体制の再編を優先することが望ましいと考えました。」

・A社の事例
 関西地方に本社をおくA社は10年程前に一般市場への上場を志していましたが、数年前からTPMへ目標市場を切り替えて上場準備を進めていました。

 しかしながら、申請期になって担当J-Adviserから、下記指摘事項を受けたそうです。
 - 事後的な稟議申請の修正
   新規出店に伴う稟議における金額が事後的に超過してしまい、結果として
  事後的に稟議の金額を変更する事案が発生
 - 予実管理
   業界特有の外部要因などから原価の見積りが難しい状況であるため、
  上記のように、予実が大きくぶれていた

 上記に加えて申請期(上場予定の期)が赤字になる見込みとなりました。このような理由から、A社は担当J-Adviserより申請を1期遅らせるよう告げられたそうです。形式基準がないために、「上場が容易である」といわれているTPMではありますが、J-Adviserの審査次第で、上場時期を延期するということにもなります。

3.近年のTPM上場企業の特徴・トピック


 近年注目が集まっているTPMですが、ここでいくつか注目していただきたいポイントをご紹介いたします。

3-1.TPM上場企業の株主

TPMの特徴として、株式の売買がプロ投資家に限定されているため、社長のオーナーシップを保持しながら上場を実現できることが挙げられます。だからこそ、事業承継をする上でもTPM上場が有効だといわれており、実際にほとんどの企業がオーナー社長が筆頭株主となった状態でTPMへ上場しております。

 一方で、TPMは株式の流動性が低く上場時の資金調達を期待できないことから、
IPOのド真ん中の大義名分かつ醍醐味である「株式市場からの資金調達」という命題を達成できないために、一般市場と比較した際にTPMが敬遠されているという側面もあります。

このような側面がある一方で、
TPM上場企業の株主という観点からも、TPMに注目が集まっていることが窺えますので、いくつか事例をご紹介いたします。

・C Channel株式会社
 LINEの立ち上げにも関与した森川氏によって設立された同社は、2020年5月にTPMへ上場しております。同社はベンチャーキャピタル(以下、VC)や投資ファンドから出資を受けております。TPMが企業の成長戦略として注目されているからこそ、VCや投資ファンドから出資を受けている企業もTPMへ上場している、と考えることもできます。

(出典:C Channel株式会社 発行者情報

・オージックグループ株式会社
 各種精密ギア等の一般産業機械部品の製造、加工、販売を営む同社は、2021年6月にTPMへ上場しております。

2022年6月に開催した弊社の研究会にご登壇いただいておりまして、
今回はその際に同社の代表取締役社長である田中文彦様にご講演いただいた内容をもとに、ご紹介させていただきます。

株主である大阪中小企業投資育成からは1981年に出資を受けたそうで、TPM上場後、同社は大阪中小企業投資育成から自己株式として株式を買い取っております。

同社の他にも、上場申請を取下げたものの、株式会社コトラも東京中小企業投資育成が株主となっております。

(出典:オージックグループ株式会社 発行者情報

ブリッジコンサルティンググループ株式会社
 公認会計士のフリーランスによるプロシェアリング事業を展開している同社は、2022年5月にTPMへ上場しております。
投資ファンドや事業会社などが株主にいますが、注目していただきたいのは、同社の担当J-Adviserである日本M&Aセンターからも出資を受けています。

3-2.TPM上場までの期間 


 図式で示す通り、一般的にはTPM上場にあたっては上場の直前々期(N-2期)の期末近くから直前期(N-1期)の第1四半期あたりにJ-Adviser契約を締結します。直前期(N-1期)の監査を経て、申請期にJ-Adviserによる審査を経てTPM上場を迎えます。

しかしながら、上記のスケジュールとは異なり、例外的なスケジュールでTPMへ上場している事例もあります。

株式会社Geolocation Technology
2020年9月に担当J-Adviserであるエイチ・エス証券株式会社とJ-Adviser契約締結後、2020年12月にTPMに上場しております。
その後、2021年9月に福岡証券取引所Q-Boardに上場。
出典:株式会社Geolocation Technology 発行者情報

エヴィクサー株式会社
2021年7月に担当J-Adviserであるアイ・アールジャパン株式会社とJ-Adviser契約締結後、2021年12月にTPMに上場しております。
出典:エヴィクサー株式会社 特定証券情報

株式会社アイガー
2021年12月に担当J-Adviserであるフィリップ証券とJ-Adviser契約締結後、2022年6月にTPMへ上場を予定しております。
出典:株式会社アイガー 発行者情報

なぜこのような例外的なスケジュールでTPM上場を実現できたのかを、
Geolocation Technology ×エイチ・エス証券 特別対談』を参照して、
株式会社Geolocation Technologyの事例で分析してみましょう。

図式の通り、同社はTPMへ上場する数年前から一般市場に向けての上場準備をしておりましたが、2020年9月にJ-Adviser契約を締結してから3ヶ月後にTPM上場を実現しております。
短期間でのTPM上場を実現できた要因としては、TPM上場準備を始める前から、主幹事証券と一般市場上場に向けて社内管理体制の整備などの上場準備をしていたからだと考えられます。

(開示資料をもとに、船井総研にて作成)

3-3.TPMに関連したIPO業界のトピック


 TPMに関連するIPO業界内のニュースを2つご紹介いたします。

・日本M&Aセンターと宝印刷との資本業務提携
・ブリッジコンサルティンググループ株式会社と株式会社プロネクサスとの資本業務提携

 J-Adviser、ディスクロージャー会社、TPM上場企業などが連携していることからも、
今後より一層TPMが注目されていくことが期待できるでしょう。

4.まとめ

 以上、2022年上半期のTPMの総括になります。本コラムを通じてTPMのイメージが変わった方もいるのではないでしょうか。弊社のコラムでもお伝えしております通り、近年TPMが企業の成長戦略として評価されはじめております。

もっと具体的にTPMについて知りたい方や、J-Adviserを探している方は、
お気軽にお問合せください。

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