IPO支援コラム

新規上場(IPO)の基礎知識から新規上場するためのポイントとは

1.【上場とは】

株式上場とは発行した自社の株式を取引所で売買できるように流通させることです。上場することで所有と経営の分離がより明確化されます。非上場の会社と違い、流通した株式は一般の投資家も所有するので上場した会社は公開会社と呼ばれることがあります。

2.【上場の際の市場の種類と特徴】

■東京証券取引所と地方証券取引所

現在国内には、4つの証券取引所が存在します。東京証券取引所以外にも、証券取引所として、札幌証券取引所、名古屋証券取引所、福岡証券取引所が存在します。東京以外の証券取引所では、毎年ないし数年に一度新規上場がみられます。

以下のニーズから地方証券取引所への上場を選択する経営者が多いと考えられます。
▼自社は地場に根付いて事業展開したい
▼地元での信頼度を高めたい▼地元以外での知名度を高めたい
▼現実的な上場先として、マザーズやJASDAQ以外も検討したい

■各市場の上場企業数

次に地方証券取引所の説明と上場企業数をご紹介いたします。
(2020年7月3日時点)

▼東京証券取引所
国内外を代表する企業向けの日本の中心的な株式市場である東証一部・二部。東証一部へのステップアップを視野にいれた成長企業向けのマザーズ。信頼性、革新性、地域・国際性をコンセプトにしているJASDAQ。プロ投資家のみが取引できるTOKYO PRO Marketの計4つがあります。

上場企業数:3,713社
内訳
第一部:2,170社
第二部:480社
マザーズ:325社
JASDAQ(スタンダード):664社
JASDAQ(グロース):37社
TOKYO PRO Market:37社

▼札幌証券取引所
北海道札幌市にある証券取引所です。東証一部・二部に該当する本則市場とJASDAQ・マザーズに該当するアンビシャスという、新興市場の2つがあります。

上場企業数:58社
内訳
単独上場企業数:16社(単独とは、他の市場に上場していない場合をいいます)
本則:6社
アンビシャス:10社

▼名古屋証券取引所
愛知県名古屋市に構える証券取引所です。市場第一部・市場第二部と新興市場であるセントレックスの2つがあります。

上場企業数:291社
内訳
単独上場企業数:67社
市場第一部:4社
市場第二部:49社
セントレックス:14社

▼福岡証券取引所
福岡県福岡市にある証券取引所です。本則市場と新興市場であるQ-Boardの2つに分かれています。

上場企業数:110社
内訳
単独上場企業数:25社
本則:10社
Q-Board:5社

地方証券取引所において、上場企業数についていえば、名古屋証券取引所が最も多く291社となっておりますが、単独上場している企業の比率は、札幌証券取引所が最も多くなっております。
地方証券取引所に上場している企業の多くは、東証と重複して上場(重複上場)していることが多く、地方証券取引所からステップアップして東証へ上場するといったケースもみられます。

■地方証券取引所への上場基準とは?

地方証券取引所への上場メリットとして上場基準が挙げられます。例えば、企業規模です。IPOの際に目指されやすいマザーズでは、時価総額が10億円以上必要とされます。
反対に、札幌証券取引所アンビシャスでは、時価総額に対する基準がありません。ご参考までに、以下に各地方証券取引所の上場要件を記載しております。

【各証券取引所の上場基準】
新規上場の際に目指されやすい市場としては、JASDAQやマザーズが挙げられます。一方で、地方証券取引所へ上場するという選択肢もあります。自社がどの市場を目指すべきか、という点については、IPO準備スケジュール・業界・マーケットの成長性・上場目的といった観点から検討すると良いでしょう。

3.【東証の市場再編】

▼市場再編の概要

2022年に東京証券取引所は現在の東証一部・二部、JASDAQ、マザーズの構成からプライム市場、スタンダード市場、グロース市場(仮称)に再編成される予定です。(TOKYO PRO Marketは現況維持)
基本的には東証一部の流通株式時価総額が高い銘柄がプライム市場、東証一部のその他の銘柄と東証二部とJASDAQ(スタンダード)の銘柄がスタンダード市場、JASDAQ(グロース)とマザーズの銘柄がグロース市場に移行すると考えられます。

▼東証上場へのハードルに変化はあるのか

新規上場へ向けて準備として対応すべき事項は大きく変わらないものとみられます。ただ、流通株式という概念が再定義される方向性のため、その点理解しておいたほうが良いです。
時価総額は発行済株式数と株価をかけあわせて算出します
。流通株式に関してですが、今回の市場区分の再編で流通株式の定義が見直されました。

以前は
・上場株式のうち、「上場株式数の10%以上を所有する株主が所有する株式」、「役員が所有する株式」、「自己株式」、「役員以外の特別利害関係者の所有する株式(新規上場・一部指定時のみ)」を除いたもの
そして今回の市場区分の再編で下記のように再定義される予定です。
・実態として流通性が乏しいと考えられる株主の保有する株式については、株主の保有比率に関わらず流通株式から除外
※ 例えば、政策保有株などについて検討することが考えられるつまり、流通株式の定義はより実態の株式の流通性を反映したものになったということです
。以前は会社の株式の10%未満であれば保有する株主の株式が流通性が乏しくても流通株式としてみなされていましたが、今回の再定義によってこうした株式が省かれるようになります。
また、新市場区分では上場維持の基準も流通株式比率をマザーズでは5%以上保つ必要があるのに対し、グロース市場では25%以上という比率を保たなければならなくなるようです。(参考:https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/nlsgeu000003pd3t-att/nlsgeu000004kjhc.pdf
このように東京証券取引所は株式の流通性を企業により意識させ、証券取引所の機能の最適化、株式市場の活性化を実現しようとしていると考えられます。

4.【上場のメリット】

このように新規上場、上場を維持するには手間と費用がかかりデメリットが多いように見えます。しかし、それ以上にIPOの恩恵を受ける会社は多いです。
経営者としての企業経営の1つのエグジットの方法としてIPO(上場)があります。これまで数多くのIPOをした社長にお話しをお聞きしましたが、
「IPOをしたメリットは何ですか」と
お聞きしたところ、総じて、下記のようなことでした。

1.自らの個人保証が外れ、気が楽になった。
(上場しない場合は会社の借入の大半が経営者の個人保証が入っているケース)

2.資金調達の幅が広がった。他社の買収(M&A)が視野に入るようになった。
(非上場の会社は金融機関からの借入がメインであるので)

3.社会的信用力が上がり、優秀な人材を採用しやすくなった。

4.コンプライアンス遵守が必然的に自動的にできるようになった。
(上場基準を満たすために必要であり、決算などの開示義務があり、社外取締役や株主からの監視の目があるため)

5.事業計画・資金計画を緻密に立てるようになった。(上記と同じ理由で)

6.次世代への経営の引継ぎがやりやすくなった。
(上場会社はそもそも、「会社は株式を保有している株主のもの」という概念があるので、所有と経営の分離がそもそもできている)

上記は「上場したからできるようになる」という側面もありますが、「会社を成長させるために必要だと考えて上場を目指した」結果であり、「上場しなくても、やっておいて会社の成長のためにメリットになることも多い」です。

5.【新規上場を目指すにあたっておさえておくべきこと】

以上のメリットを踏まえた上で特におさえて頂きたいポイントが

①監査法人へのアプローチ
②労務管理
③予実管理

です。それぞれ説明してまいります。

①監査法人へのアプローチ
近年、監査難民という言葉があるように監査法人のスタッフ不足により監査契約が結びにくくなってきております。そのため監査契約を結んでくれる監査法人を確保する必要があります。
上場のためには二期分の監査証明が必要になるため、監査契約は上場にあたって必須です
監査法人と接する際は下記のポイントを意識してください。

・経営者の誠実性
・会社の管理体制
・持続可能性のある組織作り
・事業の成長性

②労務管理
働き方改革の影響もあり、
上場においても労務管理の状況について厳しく審査されるようになりました。
残業代の未払いや安全衛生の管理(ストレスチェックなど)の漏れ
などないようにご注意ください。

③予実管理
株主保護の観点から予算実績管理の体制があるか審査されます。
業績予想と実績の乖離が起きると株価が低下し、株主も大きく影響を受けます。
売上高は±10%以内、営業損益は±30%以内におさえるように
業績予想および経営計画を作成できるようにする必要があります。

 

6.【まとめ】

以上
新規上場(IPO)の全体的な概要をご説明してまいりました。
監査法人や主幹事証券との契約、証券取引所の審査などをクリアするためには
IPOに関する情報を収集しつつ、早期からしっかりした準備が必要です。
上場までに3~5年は準備の為の期間が必要だとお考えください。

この記事のことやIPOについてご不明な点がございましたら、
われわれ船井総研IPOコンサルタント(ipo@funaisoken.co.jp)にお気軽にご連絡ください。
IPOにかかる費用、自社にとってのメリットやデメリットだけでなく、従業員にとっても自社が上場することのメリットやデメリット、また目指すべき時期などご不明な点がありましたら些細なことでも構いません。

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