IPO支援コラム

経営に「管理体制」の目線を入れる強みとは

まえがき

 

上場(株式公開)企業は、資金調達の実現、非上場企業にはない社会的信用を活用した大規模な業務推進・人材採用を行える点で、非上場企業と比較し非常に有利な立場にある一方で、上場企業としての責任も発生します。
株主、特に多数の一般投資家に対して業績維持・拡大のための責任を負うことになるうえに、業績開示は四半期に1回、さらに業績に影響を与えるような事象に関しても適時適切に開示を行うことが必須となります。
船井総研ホールディングスも東証一部上場企業であり、常に企業関係者すべての目線にさらされている状況にあります。

 

(※1)ご参考:株式会社船井総研ホールディングスのIRサイト

 

(2019年10月14日時点引用 株式会社船井総研ホールディングスサイトより)

 

「業績に影響を与えるような事象」とは、売上減少・特別損失の発生といった数的事象に留まりません。経営陣の交代、場合によっては子会社事業の縮小・拡大、さらには従業員が起こした各種事件に至るまでプレスリリース等で明らかにすることで、リアルタイムに投資家に対して投資判断が可能な材料を提供することが求められます。その意味で、「社会の公器」としての役割を担っています。

 

これらを非上場企業の立場で上場を考えると、メリットも大きい半面デメリットもあり、急拡大で資金ニーズが旺盛な企業や、PRが何より重要な今流行りの「サブスク系企業(利用した期間に応じて使用料を支払うサービスの展開を行う企業)」でもない限り、上場する意味が少ないのでは…?と感じた方も多いかもしれません。

 

しかし、非上場企業に対するここ数年の金融庁方針を鑑みた際には、実は上場企業の管理体制、つまり経営に「ソト」の目線を取り入れることが、ひいては自社の金融環境を最適なものに変える可能性が高いことを、皆様はご存知でしょうか。
今回は、金融業界が推し進めているが定着しきらないように見える「事業性評価」のボトルネックと、それを打開しうる上場企業経営の「ソト」の目線の使い方に関して考えます。

 

2014年から推進される金融庁の「事業性評価」

 

ところで、非上場企業の金融環境という話にテーマを移せば、ここ数年「事業性評価」という言葉が業界誌や経済誌に踊るようになって久しくなりました。金融庁では平成26年(2014年)10月、すなわち5年以上前から事業性評価、つまり金融機関は企業を決算書の内容だけではなく、ビジネスモデルや今後の成長性を鑑みて評価しなさいという方針が叫ばれています。

 

(※2)ご参考:金融庁「地域金融機関による事業性評価について」
(2019年10月14日時点引用 首相官邸ホームページより)

 

上場企業のように直接金融などの柔軟な資金調達手段を持たない非上場企業に対して、従来金融機関が重視していた点は、決算内容のほか「返済原資の疎明」でした。つまり「何があってもお金を返すことが可能なのか」という部分でした。そのため、返済原資となるキャッシュの確保は当然のこと、二次的返済能力としての経営者保証差入れ、ならびに担保提供がほぼ必須の環境下にあったのです。
 しかし、多くの場合経営者は法人で動かすほどの債務の弁済能力はなく、担保提供できる物件にも限りが存在するなか、こうした状況が継続的に続くことは非上場企業の地盤沈下につながりかねません。そこで打ち出されたのが「事業性評価」という金融庁の方針です。金融機関はこれまで以上に担当先の企業に足を運び、数字には見えない事業性をヒヤリングし、しっかりとそれを稟議に落とし込んで融資を行うことが大切だという方針に、がらりと転換したのです。

 

さて、既に5年前から金融庁の本質を突いた動きが施行されるなか、5年後の今、その策は遅々として一般化されてないように感じます。原因の1つには、金融機関の担当者がこれまでマニュアルに従って大量の顧客を抱えて融資を行ってきたなかで、とてもではないが1先1先の顧客にヒヤリングを行い、融資で稼ぐには時間が足りないという構造不況の問題があると言われています。筆者も金融機関で3年間、法人融資業務を経験しましたが、たしかに事務~営業までを一気通貫で行い、100先以上の顧客リストを抱え、預金・為替・融資・外為の各種商品のノルマを課されるなか、事業性評価までやらなければならないと考えるだけで、とてもではないですが業務が立ち行かなくなってしまうだろうと感じます。

 

事業性評価を行うことで適切に間接金融が回っていくことが金融庁方針でありながら、現場には深いボトルネックが存在するといえます。この意味で、事業性評価を行うのは金融機関でありながら、評価を受ける我々がこの流れを理解し、自ら情報を提供する等、金融機関に歩み寄る必要があるように思います。

 

上場企業の体制を学び、金融取引に応用する

 

金融業界では非上場企業の事業性を引き出し、それを根拠に融資取引などを展開する必要性が叫ばれています。しかし、業界の構造不況もあって取り組みは定着していません。そこで、お金の借り手である企業側が主体的な歩み寄りを見せ、情報開示を行うことが1つの有効手段と考えられます。ここで、ロールモデルとしてぜひ学ぶべきなのが、まさに今回最初にお伝えした「上場企業の経営スタイル」ではないでしょうか。

 

上場企業が投資家、つまり企業経営に必要な資金を供給してくれる相手に対して情報公開をしていると考えれば、非上場企業が同様に資金調達の窓口、債権者たる金融機関に、適時適切な情報開示を行うことは、何らおかしなことではないと考えます。

 

たとえば、
・試算表による急激な売上減少の原因は何で、どのような展望が予測されるのか
・人件費が年々高騰している件に、今後どのように対応していくのか
・今期経常利益で残した利益は来期どのように活用され、どう成長していくのか
といった情報は、まさに上場企業であれば「決算短信」「有価証券報告書」「営業のご報告」といった各種資料につまびらかになっている内容で、それはそのまま企業の事業性を表現する材料に直結します。

 

金融機関(=お金の出し手)にとっても
・企業は投資に積極的なのか、消極的なのか
・新規事業を伸ばす意向なのか、既存事業の成熟を狙うのか
・人材投資に励むのか、営業効率の上昇を狙うのか
 という項目が数値に合わせて理解できれば、より返済原資に関して記述を行う「稟議」に活きた情報が記載でき、ひいては最適な資金調達も提供できる環境が整うはずなのです。非上場企業と言えど、今や時代は情報開示の正確さが求められています。

 

まとめ:上場企業のIRから学ぼう

 

上場企業というと、ついコマーシャルやニュースなどのメディアに露出する「大企業群」のイメージが強くなってしまいがちですが、株式公開市場・規模・上場の意図などは多岐にわたり、実は段階はあれど非上場企業とは地続きの場所に位置付けることが可能です。 自社も同様に上場を狙うという事であれば当然、また上場を狙わずとも「今後の資金調達を円滑にしたい、社内目標を明確にし、管理体制を構築したい」といった目標を掲げるのであれば、そのロールモデルとして上場企業から学んでいくことは、非常に有効な手段なのではないでしょうか。
 まずは同業界の上場企業のIRサイトをご覧いただき、彼らが現在・過去・未来に関してIRで何を語っているのか、是非一度内容をご確認いただけると幸いです。

 

金融・M&A支援部
片山孝章