新規上場(IPO)の
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IPOコラム
2024年上半期(1月~6月)のIPO市場の総括
2024年上半期(1月~6月)では、一般市場に38社(スタンダード市場:4社、グロース市場:34社)が新規上場し、地方市場への新規上場はありませんでした(注1)。2023年上半期では合計44社が上場しているため、昨年対比ではやや減少しました。東京証券取引所による新規上場基準見直しなどが影響を与えていると考えられます。グロース市場においては、一部企業による大型IPOやTOKYO PRO Marketからのステップアップ上場がありました。
2023年と比較して2024年において、IPO市場ではどのような変化があったのでしょうか。本コラムでは、具体的な数値をもとにした分析を通して2024年上半期のIPO市場の状況を振り返ります。
(注1)一般市場への新規上場企業数はTOKYO PRO Marketからのステップアップ上場を含んでいます。
▼2024年上半期のIPO市場について船井総研IPOコンサルタントが解説した動画はこちら▼
Table of Contents
1. 2024年上半期のIPO市場の動向
2024年上半期では、一般市場に合計38社が新規上場しました。 2023年までは地方市場へ新規上場を果たす企業が継続的に誕生していましたが、2024年上半期では地方市場の新規上場実績はありませんでした。
以下では、新規上場企業の業績など具体的な部分で変化はあったのかについて解説いたします。
1.1 新規上場企業数の推移
2024年上半期では、スタンダード市場に4社、グロース市場に34社が上場しました。プライム市場への新規上場企業はありませんでした。一般市場への新規上場企業数は昨年上半期の新規上場企業数44社と比べるとやや減少しています。一般市場への新規上場企業数がやや減少した要因の一つとして、上場時時価総額が考えられます。2024年3月22日付けで東京証券取引所(以下、「東証」)が公表した『グロース市場の上場基準に係る検討』には、少なくとも現時点においてはないものの、グロース市場・スタンダード市場の新規上場基準の引き上げを今後の検討事項とする旨が記載されております。また、現在のグロース市場に上場している会社の時価総額中央値は60億円ですが、全体の31%(177社)は現行上場維持基準である40億円に達しておらず、このまま上場から10年を経過すると基準に抵触すると予想されています。東証の発表を受け、証券取引所だけではなく、主幹事証券も上場準備会社の上場時時価総額を想定して、厳格に引受先の選定を行っているのではないかと推察されます。このような状況から、いわゆる「主幹事証券難民問題」に悩まされている企業も多くいるのではないでしょうか。
参考)2024年3月22日 東京証券取引所『グロース市場の上場基準に係る検討』
https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/nlsgeu000006gevo-att/mklp770000002odz.pdf
図1:一般市場の新規上場企業数の推移(2024年6月末時点で各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成)
新規上場を月別に分析すると、例年通り3月・6月の新規上場企業数が多くなっております。新規上場企業の決算月と上場月を比較すると、決算期末での上場や期越え上場が目立っております(図2)。上場企業数が多かった3月と12月に目を向けると、3月決算の会社では5社が上場申請期末、6社が申請翌期(期越え上場)に上場しており、12月決算の会社では上場申請期末の会社はなく、8社が申請翌期(期越え上場)での上場となっています。一般市場全体(38社)では、22社が期越え上場をしております。
期越え上場となる要因を一概に断定することはできませんが、一般的には業績不振や主幹事証券や証券取引所から予実管理体制について厳格な上場審査が行われているためだと考えられています。業績不振や予実管理体制に不備がある上場申請会社は、上場申請期の通期着地見込みが立つまで上場時期が後ろ倒しになる可能性があります。そのため、申請期の上場時期が決算期末や期越え上場となってしまうケースも見られます。これから上場準備を開始しようと検討されている会社は、「予算作成にあたって精度の高い予算を作成できる体制を整える」、「予算と実績に乖離が生じた際に、速やかに予算修正ができる体制を整える」といった体制の整備に着手した方がよいかもしれません。
図2:2024年における月別の一般市場の新規上場企業数(2024年6月末時点で各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成)
1.2 新規上場企業の特徴
①本社所在地
例年同様、一般市場では東京都に本社を置く新規上場企業が多くなっておりますが、本社所在地と設立年数の関係性を分析すると、ある特色が浮かび上がります。2024年上半期では、図3で示す通り、東京都に本社を置き、会社設立から10年以内のIPO企業が最も多いことが分かります。2024年上半期では、地方に本社を置く業歴の長い企業はなかったものの、スタンダード市場に上場した4社のうち3社は設立10年以上の企業となっております。
図3:2024年上半期のIPO企業の本社所在地と設立年数(2024年6月末時点で各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成)
②業種銘柄
一般市場では、「情報・通信業」「サービス業」での新規上場企業数が多く、そのほとんどが東京都に本社を置く企業となっております。その他、「小売業」や「建設業」などでは東京都以外に本社を置く企業が新たに上場しています。
図4:2024年上半期のIPO企業の業種銘柄と本社所在地(2024年6月末時点で各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成)
③業績規模
図5に示す通り、スタンダード市場に上場した4社は、2023年度の売上高・経常利益・上場時時価総額(注2)の各数値の中央値を上回っていることから、2024年上半期は、2023年を上回る事業規模の会社が上場していることがわかります。グロース市場は中央値で比較すると、売上高・上場時時価総額(注2)はやや減少したものの、おおむね昨年並みに推移しております。
2024年7月26日に上場予定の株式会社タイミーが2024年の大型IPOとして話題になっておりますが、2024年3月にグロース市場へ上場した株式会社トライアルホールディングス(小売業)も注目の大型IPO企業です。同社は2023年に一度上場申請を取り下げておりましたが、1年後に再度上場申請を行い、上場時時価総額2,021億14百万円、上場日の終値ベースの時価総額が2,615億58百万円となりました。今後は、同社のようにリアルビジネスにAIをかけ合わせたような業態がIPO企業として増えていくかもしれません。
(注2)上場時時価総額は公募価格をベースに算出
図5:2023年におけるIPO企業の業績規模と2024年上半期におけるIPO企業の業績規模(2024年6月末時点で各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成)
1.3 主幹事証券・監査法人の状況
①監査法人の状況
図6では、2024年上半期において新規上場企業への監査実績がある監査法人を一部抜粋して示しています。一般市場に上場した38社のうち半数にあたる19社を大手以外の監査法人が担当していますが、例年に続いて中堅・中小監査法人の実績数が増加傾向にあります。近年IPO業界で話題となっている「監査難民問題」で悩まされている上場準備会社は、大手以外の監査法人へアプローチを検討されるのもよいかもしれません。
図6:2024年上半期のIPO企業の監査法人の実績(2024年6月末時点で各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成)
②主幹事証券の状況
図7では、市場別の主幹事証券の実績を示しています。グロース市場については上場時時価総額のレンジ別に新規上場企業数を記載しております。2023年の実績が14社であったSMBC日興証券が2024年上半期時点では最多である10社を担当しており、実績を伸ばしています。
グロース市場に新規上場企業した34社のうち6割近くが、上場時時価総額(公開)20億円以上100億円未満となっており、上場時時価総額20億円未満のグロース市場の新規上場企業を引き受けているのはみずほ証券のみとなっております。
東証が新規上場基準や上場維持基準の見直しを検討しているだけではなく、主幹事証券が主幹事契約をする際に、上場時の時価総額が一定金額以上になると見込まれる企業のみに契約を絞り込んでいるとともいわれており、今後主幹事証券が決まらずに上場準備が予定通りに進まない、といったケースも増えてくる可能性があります。監査難民ならぬ、「主幹事証券難民問題」といわれることもあります。
図7:2024年上半期のIPO企業の主幹事証券の実績(2024年6月末時点で各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成)
2. IPO市場のトレンド・トピック
2.1 2代目社長によるIPO
2023年のIPO市場のトピックとして、地方の老舗企業で2代目社長によるIPO事例がありました。。例えば、2023年10月にスタンダード市場に上場した株式会社西部技研(福岡県本社)や2023年11月にスタンダード市場に上場したJapan Eyewear Holdings株式会社(福井県本社)が挙げられます。
2024年上半期においても、このような2代目社長によるIPO事例はあったのでしょうか。図8では、一般市場における上場時の社長の年齢と会社の設立年数をまとめました。投資ファンドへ売却した企業や従業員承継によるIPOもあるため一概には言い切れませんが、社長の年齢よりも会社の設立年数の方が長い企業があることからも、その中のいくつかは2代目社長によるIPO事例と想定されます。
2024年上半期での2代目社長によるIPO事例として、2024年3月にグロース市場へ上場した株式会社STG(本社は大阪府)があります。同社は2019年6月にTOKYO PRO Marketへ上場しており、2019年6月期の売上高は24億3百万円でしたが、グロース市場へ上場する2023年3月期の売上高は46億84百万円となっており、TOKYO PRO Market上場後に売上高が約2倍となりグロース市場へステップアップ上場した事例になります。
図8:2024年上半期のIPO企業の社長の年齢と設立の関係性(2024年6月末時点で各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成)
2.2 TOKYO PRO Marketからのステップアップ上場
前述した株式会社STGをはじめ、2024年6月末時点で、累計11社がTOKYO PRO Marketから一般市場へのステップアップ上場しています。TOKYO PRO Marketを自社の事業成長におけるファーストステップとして、将来的な一般市場上場の前に、TOKYO PRO Marketへ上場する企業が今後も増加していくことが期待できます。前述した株式会社STGのように、TOKYO PRO Marketに上場後、売上・利益を伸ばして一般市場へ上場するケースは今後増加すると考えられます。
図9:TOKYO PRO Marketからステップアップ上場を果たした企業(2024年6月末時点で各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成)
3. まとめ
以上、2024年上半期のIPO市場の動向をまとめました。一般市場では、東証が新規上場基準や上場維持基準の見直しを検討していることや、2022年4月の東証の市場再編の影響、証券会社の主幹事証券契約事情など様々な要因により、上場のハードルが高くなっている印象を受けます。新規上場を目指す会社にとって最初のハードルであった「監査難民問題」に加えて「主幹事証券難民問題」という課題にも直面する会社も増える可能性があります。そのため、IPOを検討している企業は、IPOに関する最新の情報を早めに入手できる体制を整えた上で、幅広くアプローチしていく環境を整えることが重要になります。その際に知見やIPO界隈にネットワークを有するIPOコンサルタントなどのサポートを受けることもIPO準備を効率的かつ効果的に進めるための選択肢の一つになります。
一般市場とは異なりプロ投資家向け市場であるTOKYO PRO Marketについては、新規上場企業数の増加だけでなく、ステップアップ上場の事例が増えていることから、より一層注目度が増していくと考えられます。。当社へお問い合わせいただく上場準備企業の中でも、これまで一般市場への上場準備を進めていたが、目標市場をTOKYO PRO Marketへ切り替えるという選択をする企業も少なくありません。
これまで以上にグロース・スタンダード市場を目指す上場準備企業こそ、「まずは、TOKYO PRO Marketへ」という道筋をたどる可能性があります。そのため、TOKYO PRO Marketへの上場を検討しているというだけでなく、目標市場がぼんやりしており、いつか上場したいと考えている企業であっても、「そのうち相談する」というスタンスではなく、「早めにJ-AdviserやIPOの有識者に相談する」ことをおすすめいたします。
株式会社船井総合研究所は、J-Adviserの立場だけでなく、IPOコンサルタントとしての立場でも、上場準備企業をサポートすることが可能です。本コラムを通じて、IPO準備やTOKYO PRO Marketに関して、当社へご相談されたい方は下記URLよりお問合せください。
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