IPOコラム

2025年上半期のIPO市場の総括

2025年上半期のIPO市場の動向

2025年上半期は、一般市場の新規上場企業数は28社でした。一般市場の新規上場企業数は昨年同期間から10社減と大きく減少し、特にグロース市場新規上場数の減少が顕著でした。

以下では、新規上場企業の業績など具体的な部分で変化はあったのかについて解説いたします。

新規上場企業数の推移

2025年上半期は、プライム市場2社、スタンダード市場5社、グロース市場18社、名証ネクスト市場1社、札証アンビシャス市場1社、福証Q-Board1社の計28社が一般市場への新規上場しました。

図1:一般市場の新規上場企業数の推移(2025年6月末時点で各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成)

一般市場への新規上場企業数は昨年上半期の新規上場企業数38社と比べると減少しています。

一般市場への新規上場企業数が減少した要因の一つとして、上場維持基準の見直しが考えられます。

2025年4月22日付けで東京証券取引所(以下、「東証」)が公表した『グロース市場における今後の対応』には、2030年以降、上場から5年が経過している企業に対して、上場維持基準を現行の「上場10年経過後から、時価総額40億円以上」から「上場5年経過後から、時価総額100億円以上」に変更する案が記載されています。公表自体は2025年の4月ですが、2024年頃から各所で新規上場時の時価総額の引き上げ(ec上場時に時価総額100億円以上が見込める企業でないと、主幹事契約との契約が難しい状況、など)は話題になっており、東証の公表により現実的に、新規上場時の時価総額として100億円を意識せざるを得ない状況になりました。

なお、現在のグロース市場に上場している企業は約600社ありますが、全体の30%ほどしか、時価総額100億円以上の企業はないため、新たな上場維持基準が適用されると、多くのグロース市場上場企業が上場市場の変更や上場廃止を余儀なくされることとなります。

図2

2025年に入ってから、グロース市場を目指している上場準備会社は、新規上場時の時価総額が100億円以上、主幹事証券によっては、200億円や300億円を見込むことができるような事業計画が必要になっている環境です。 

参考)2025年4月22日 東京証券取引所『グロース市場における今後の対応』

https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/nlsgeu000006gevo-att/um3qrc0000016108.pdf

新規上場企業の特徴

①本社所在地

例年同様、一般市場では東京都に本社を置く新規上場企業が多くなっております。

図3:2025年上半期のIPO企業の本社所在地(2025年6月末時点で各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成)

本社所在地が鳥取県、埼玉県の企業はそれぞれ名証ネクスト、福証Q-Boardに新規上場しており、東証に限れば東京都に本社を置く企業が75%以上を占めています。

また、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)に上場していた鳥取県に本社を置く株式会社バルコスが2025年2月3日に名証ネクストに、埼玉県に本社を置く株式会社パパネッツが2025年3月21日の福岡Q-boardへステップアップ上場をしています。2024年も3社のステップアップ上場があったことから、今後このような事例が増加していくことが期待されています。

②業種銘柄

一般市場では、「情報・通信業」「サービス業」での新規上場企業数が多く、そのほとんどが東京都に本社を置く企業となっております。その他、静岡県に本社を置き、医療機器を製造・販売する株式会社北里コーポレーションや、鳥取県に本社を置き、バック・財布などの企画・販売を行う株式会社バルコスなど、東京都以外に本社を置く企業が新たに上場しています。

③業績規模

図4
(注1)上場時時価総額は公募価格をベースに算出

 プライム市場には2社が上場しています。中でもENEOSの中核事業会社であるJX金属株式会社の上場は大型上場として注目を集めました。

主幹事証券・監査法人の状況

①監査法人の状況

図5では、2025年上半期において新規上場企業への監査実績がある監査法人を一部抜粋して示しています。一般市場に上場した28社の約4割に当たる11社を大手以外の監査法人が担当していますが、例年に続いて中堅・中小監査法人の実績数が増加傾向にあります。近年IPO業界で話題となっている「監査難民問題」で悩まされている上場準備会社は、大手以外の監査法人へアプローチを検討されるのもよいかもしれません。

図5:2025年上半期のIPO企業の監査法人の実績(2025年6月末時点で各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成)

②主幹事証券の状況

 図6では、市場別の主幹事証券の実績を示しています。。SMBC日興証券株式会社、みずほ証券株式会社、大和証券株式会社、野村證券株式会社が5社で2025年上半期では最多となっています。スタンダード市場においては、みずほ証券株式会社が3社と最多であり、グロース市場では、SMBC日興証券の5社に続いて、大和証券株式会社、野村證券株式会社が4社を担当しています。この4社で2025年上半期上場企業のうち約7割を担当しています。

図6:2025年上半期のIPO企業の主幹事証券の実績(2025年6月末時点で各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成)

IPO市場のトレンド・トピック

グロース市場の新たな上場維持基準の公表

2025年4月22日、東京証券取引所は、グロース市場の新たな上場維持基準案を公表しました。

現行の上場維持基準では「上場から10年で株式時価総額が40億円」に達しない企業を上場廃止にするとしていましたが、新たに上場維持基準を「上場から5年で株式時価総額が100億」とする案になります。

十分な助走期間を確保するとして、2030年以降に上場から5年経過している企業に新基準の適用を行うとしています。

一方で、2025年上半期時点で、時価総額100億円以上の企業は全体の約30%であり、新基準に則ると多くのグロース市場が上場廃止になることが考えられます。

これにより、グロース市場への新規上場数は減少し、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)・Fukuoka PRO Market(福岡プロマーケット)への新規上場数が増加することから、2025年の年間ベースでの新規上場企業数も、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)が、グロース市場を上回る可能性があります。

図7

まとめ

以上、2025年上半期のIPO市場の動向をまとめました。

一般市場では、2025年4月の東証グロース市場の新上場維持基準案公表の影響、証券会社の主幹事証券契約事情など様々な要因により、上場のハードルが高くなっている印象を受けます。新規上場を目指す会社にとって最初のハードルであった「監査難民問題」に加えて「主幹事証券難民問題」という課題にも直面する会社も増える可能性があります。

そのため、IPOを検討している企業は、IPOに関する最新の情報を早めに入手できる体制を整えた上で、幅広くアプローチしていく環境を整えることが重要になります。その際に知見やIPO界隈にネットワークを有するIPOコンサルタントなどのサポートを受けることもIPO準備を効率的かつ効果的に進めるための選択肢の一つになります。

一般市場とは異なりプロ投資家向け市場であるTOKYO PRO Marketについては、新規上場企業数の増加だけでなく、ステップアップ上場の事例が増えていることから、より一層注目度が増していくと考えられます。当社へお問い合わせいただく上場準備企業の中でも、これまで一般市場への上場準備を進めていたが、目標市場をTOKYO PRO Marketへ切り替えるという選択をする企業も少なくありません。

これまで以上にグロース・スタンダード市場を目指す上場準備企業こそ、「まずは、TOKYO PRO Marketへ」という道筋をたどる可能性があります。

そのため、TOKYO PRO Marketへの上場を検討しているというだけでなく、目標市場がぼんやりしており、いつか上場したいと考えている企業であっても、「そのうち相談する」というスタンスではなく、「はやめにJ-AdviserやIPOの有識者に相談する」ことをおすすめいたします。

株式会社船井総合研究所は、J-Adviserの立場だけでなく、IPOコンサルタントとしての立場でも、上場準備企業をサポートすることが可能です。

本コラムを通じて、IPO準備やTOKYO PRO Marketに関して、当社へご相談されたい方は下記URLお問合せください。

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